遺言書が必要な人とは?必要性が高い10のケースを行政書士が解説
「そもそも、遺言書の必要性が高い人って、どんな人なの?」
友人から受けた素朴な質問です。自分の身の回りでは、遺言書が話題にのぼることも増えています。ただ実際に遺言書を作成する人は、まだまだ少数派です。
そこで「遺言書を作成する必要性が高い人」について整理をしてみました。
遺言書というと、「多くの財産を持っている人が作るもの」というイメージを持たれがちです。
しかし実際には、財産の金額よりも、家族構成や人間関係、所有している財産の種類、誰に財産を残したいのかによって、遺言書の必要性は変わります。
相楽つよし遺言書の必要性が高い人10ケース
特に遺言書の作成を検討したいのは、次のようなケースです。
- 再婚し、前の配偶者との間に子がいる人
- 前婚・再婚それぞれに自分の子がいる人
- 独身で子がいない人・子がいない夫婦
- 介護をしてくれている子に多く財産を残したい人
- 自分の家に配偶者や子が同居している人
- 障害のある子の将来が心配な人
- 家族関係に不安や事情がある人
- 相続人以外の人に感謝の証として財産を残したい人
- 事業承継を考えている人
- 相続人がいない人
1.再婚し、前の配偶者との間に子がいる人
再婚していて、前の配偶者との間に自分の子がいる場合は、遺言書の必要性が高いケースの一つです。
自分が亡くなった場合、現在の配偶者は常に相続人となり、前の配偶者との間の子も相続人になります。
現在の配偶者と前婚の子は、疎遠であるケースも少なくありません。相続が発生して初めて連絡を取り、遺産分割について話し合わなければならないこともあります。
遺言によって、誰にどの財産を承継させるのかをあらかじめ明確にしておけば、相続人同士による遺産分割協議の負担を軽減できる可能性があります。
ただし、配偶者や子には原則として遺留分があるため、その点も考慮して内容を検討することが大切です。
2.前婚・再婚それぞれに自分の子がいる人
前の結婚と現在の結婚、それぞれに自分の子がいる場合も、遺言書を検討したいケースです。
前婚の子も再婚後の子も、いずれも自分の子であれば、原則として同じ順位の相続人です。
子ども同士に交流がなく、相続をきっかけに初めて連絡を取るケースも考えられます。
財産の承継方法を遺言で具体的に示しておくことで、相続発生後の手続きや話し合いの負担を減らしやすくなります。
3.独身で子がいない人・子がいない夫婦
「自分には子どもがいないから、相続はそれほど複雑ではない」と考えている方もいるかもしれません。
しかし、自分が考えていた人とは異なる人が相続人になることがありますので、子がいない場合こそ、遺言書を残す必要性は高いと言えます。
子がいない場合は、親などの直系尊属が相続人となり、直系尊属もいない場合には兄弟姉妹が相続人となります。
法律上の配偶者がいる場合は、配偶者は常に相続人となりますが、親や兄弟姉妹などと一緒に相続することになります。
兄弟姉妹が先に亡くなっている場合には、その子である甥や姪が代襲相続人となることもあり、相続関係が複雑になることもあります。
実際、自分が亡くなった後は「配偶者にすべて残したい」「甥や姪に残したい」「お世話になった人や特定の団体へ寄付したい」といった考えを持っている人は多くいます。それらの希望を実現するためには、遺言書を残すことがとても重要になります。
4.介護をしてくれている子に多く財産を残したい人
「長年、自分の介護をしてくれた子に、他の子より多く財産を残したい」と考える方もいるでしょう。
相続人が療養看護などによって亡くなった方の財産の維持または増加に特別な貢献をした場合、「寄与分」が認められることがあります。
ただし、介護をしたという事実だけで当然に「寄与分」が認められるわけではありません。
寄与分について相続人同士で意見が一致しなければ、話し合いや家庭裁判所での手続きが必要になることもあります。
そのため、「介護をしてくれた子に多く残したい」という明確な意思があるのであれば、遺留分にも配慮しながら、その意思を遺言に反映させておくことが考えられます。



5.自分の家に配偶者や子が同居している人
自分が所有する自宅に配偶者や子が同居している場合も、遺言書を検討する意味があります。同居している家族にとって、自宅は単なる財産ではなく、生活の基盤です。
ところが、相続財産の大部分が不動産で、現金や預貯金が少ない場合には、相続人間で公平に財産を分けようとすると調整が難しくなることがあります。
遺言によって「この自宅は配偶者に」「この不動産は同居している子に」と承継方法を示しておくことで、共有状態や遺産分割をめぐる負担を減らしやすくなります。
なお、配偶者については配偶者居住権などの制度が利用できる場合もあるため、財産状況に合わせて検討することが重要です。
6.障害のある子の将来が心配な人
障害のある子がいる方の中には、「自分が亡くなった後、この子の生活はどうなるのだろう」と心配されている方もいるでしょう。
単に財産を残すだけでなく、誰が生活を支えるのか、財産をどのように管理するのかまで考えることが重要です。
状況によっては、一定の義務を負わせたうえで財産を遺贈する「負担付遺贈」などが検討される場合もあります。
ただし、遺言だけで将来の生活支援をすべて解決できるとは限りません。
成年後見制度や信託など、ほかの仕組みとの組み合わせを検討した方がよいケースもあります。
「自分がいなくなった後、誰に、どのように支えてもらうのか」という視点まで含めて準備しておくことが大切です。
7.家族関係に不安や事情がある人
家族との関係が良好とはいえない場合も、遺言書の必要性が高くなることがあります。
例えば、次のようなケースです。
- 特定の子と長期間疎遠になっている
- 子ども同士の関係が良くない
- 配偶者と長期間別居しているが、法律上は婚姻関係が続いている
- 特定の相続人に多く、または少なく財産を残したい事情がある
法律上の婚姻関係が続いている配偶者は、別居中であっても原則として相続人です。
また、遺言によって法定相続分とは異なる財産の承継方法を指定することはできますが、配偶者や子など一定の相続人には遺留分があります。
「特定の人には一切財産を渡したくない」と考えている場合でも、遺言だけで必ずその希望を実現できるとは限らないため、行政書士等の専門家に相談するなどして、慎重に内容を検討する必要があります。
8.相続人以外の人に 感謝の証として財産を残したい人
法律上の相続人ではない人へ財産を残したい場合は、遺言書が非常に重要になります。
長男の配偶者など、相続人ではない親族に介護してもらっている場合
例えば、長男の配偶者が長期間にわたって介護をしてくれているケースです。
長男の配偶者は、通常は義父母の法定相続人ではありません。
相続人ではない親族が、無償で療養看護その他の労務を提供し、亡くなった方の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合には、一定の要件のもとで相続人に「特別寄与料」を請求できる制度があります。
ただし、介護をしていれば必ず特別寄与料を受け取れるわけではなく、要件を満たす必要があります。
「長年支えてくれた人に、自分の意思で財産を残したい」と考えているのであれば、遺言による遺贈を検討する意味があります。
事実婚・内縁のパートナーがいる場合
事実婚や内縁関係のパートナーは、法律上の配偶者とは異なり、原則として法定相続人にはなりません。
そのため、パートナーへ財産を残したいのであれば、遺言による遺贈などを検討することが重要です。
母校・公益法人・自治体などへ寄付したい場合
「自分が亡くなった後、財産の一部を社会のために役立てたい」という希望を持つ方もいます。
遺言によって、法人や団体などへ財産を遺贈する方法があります。
ただし、受け入れ可能な財産や条件は団体によって異なるため、遺言作成前に受け入れ先へ確認しておくことも大切です。
9.事業承継を考えている人
会社経営者や個人事業主など、事業の承継を考えている方にとっても遺言は重要です。
例えば、自社株式や事業用不動産などが複数の相続人へ分散すると、事業運営に影響する可能性があります。
誰に株式や事業用資産を承継させるのかを生前に検討し、遺言で意思を明確にしておくことは、円滑な事業承継のための選択肢の一つです。
ただし、事業承継では遺留分だけでなく、会社法、税金、株式の評価など幅広い問題が関係します。
遺言だけで完結させるのではなく、必要に応じて税理士や司法書士、弁護士などと連携して準備することが重要です。
10.相続人がいない人
法律上の相続人がいない方も、遺言書の必要性が非常に高いといえます。
相続人がいない場合、遺言がなければ、家庭裁判所で選任された相続財産清算人による清算などの手続きが行われます。その過程で、亡くなった方と特別な関係があった「特別縁故者」に財産の全部または一部が分与される場合もあります。
そして、こうした手続きを経ても残った相続財産は、最終的に国庫へ帰属します。
「お世話になった人へ残したい」「甥や姪へ残したい」「母校や団体へ寄付したい」という希望があるのであれば、生前に遺言として意思を明確にしておくことが大切です。



遺言書を作れば希望どおりに相続できる? “3つの注意点”
遺言書は、自分の意思を相続に反映させるための重要な手段です。
ただし、「遺言書を書けば何でも自由に決められる」というわけではありません。
1.遺留分への配慮が必要な場合がある
配偶者、子、直系尊属など一定の相続人には、法律上保障された最低限の取り分である「遺留分」があります。
遺留分を大きく侵害する遺言を作成すると、相続発生後に遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。
なお、兄弟姉妹には遺留分はありません。
2.法律で決められた方式を守る必要がある
遺言には法律上の方式が定められています。
自筆証書遺言を自分で作成する場合も、形式に不備があると問題になる可能性があります。
法務局には自筆証書遺言書保管制度がありますが、法務局が遺言内容の法的な有効性まで保証する制度ではありません。
3.家族や財産状況が変わったら見直す
遺言書を作成した後に、家族構成や所有財産が変わることもあります。
不動産を売却した、預貯金が大きく変わった、結婚・離婚・出生・死亡など家族関係に変化があった場合は、遺言書の内容を見直しましょう。
遺言書の必要性について よくある質問
Q1. 財産が少なくても遺言書は必要ですか?
A. 財産額が少ないから遺言書が不要とは限りません。
自宅など分けにくい財産がある場合や、相続人同士が疎遠な場合、相続人以外へ財産を残したい場合などは、財産額にかかわらず遺言書を作る意味があります。
Q2. 遺言書は自分で作成できますか?
A. 自筆証書遺言であれば、自分で作成することができます。
ただし、法律上の方式や遺留分、財産の特定方法などに注意が必要です。
Q3. 遺言書は何歳くらいで作ればよいですか?
A. 「高齢になったら作る」と決まっているものではありません。
再婚した、家を購入した、事業を始めた、家族構成が変わったなど、「自分が亡くなった後の財産の行方を考える必要が出てきた時」が、遺言を検討する一つのタイミングです。
遺言・相続に関する公的情報
制度や手続きの内容は変更される場合があります。最新情報は公的機関の案内もご確認ください。
【まとめ】遺言書が必要なのは資産家だけではありません
遺言書の必要性が高い方は、決して一部の資産家だけではありません。
再婚している方、子どもがいない方、同居家族がいる方、介護してくれた人へ多く残したい方、事実婚のパートナーがいる方、事業を経営している方など、さまざまなケースがあります。
大切なのは、財産が多いか少ないかではなく、「自分が亡くなった後、この財産を誰に、どのように引き継いでほしいのか」を考えることです。
友人から「遺言の必要性が高い人って、どんな人なの?」と聞かれたことをきっかけに、改めて整理してみると、遺言は思っている以上に多くの方に関係する制度だと感じます。
「遺言書は資産家が作るもの」「まだ元気だから必要ない」と決めつけず、一度、自分の家族や財産について考えてみることが、将来への備えの第一歩になります。
この記事の監修者
行政書士 相楽つよし事務所
埼玉県川口市周辺(埼玉県東部・南部、東京23区、千葉県西部の一部)で、相続手続き・遺言書作成などをサポートしています。
「何から始めればよいか分からない」という方にも、できるだけ専門用語を使わず分かりやすくご説明することを大切にしています。
遺言書を作った方がよいか迷っている方へ
遺言書が必要かどうかは、家族構成や財産状況によって異なります。
「自分の場合も作った方がいいのだろうか」「誰にどの財産を残すか整理できていない」という段階でも、まず現在の状況を整理することが大切です。



遺言書の種類や作成方法、行政書士に依頼できる内容について詳しく知りたい方は、遺言書サポートページをご覧ください。





